田渕俊夫は1941年(昭和16年)8月15日に東京都江戸川区小岩で生まれた日本画家である。
東京藝術大学美術学部日本画科へ1年の留年を経て入学、在学中も落選を繰り返した遅咲きの才能であったが、大学院卒業時に作成した「水」が大学買い上げとなってようやく世に認められるようになった。
主に植物や風景を描き、非常に繊細な筆使いによる線画は精密さの中にも温かさを感じさせ、苦学中にスケッチを繰り返した努力の結晶となって表れている。色彩感覚に優れ、初期の作品では特に明るい色合いを用いていたが、「色彩を使うと絵が重くなるが、墨では虚像的なリアル感が出てくる」という境地に達し墨一色の作品へと移行していく。永平寺の襖絵24面や鶴岡八幡宮斎宮の襖絵6面などがその代表である。
また、襖絵を描く際に下図をOHPで直接襖に投影しそれに沿って描いていくといった新しい手法や、ビニールシートを切り抜いて作った型を用い時間の経過を表現することでベトナムの街の喧騒を描き出すなど、これまでの日本画の技法にとらわれず常に自らの感性を表現するということに忠実であり続けているが、日本画の根幹である「精神性」と「装飾性」は揺らがず、改めて日本画の素晴らしさを感じさせる作品を生み出し続けている。